第1章 月夜
「どうされたのですか!?あぁ……それより早く手当をしなくては」
そう言って腹から出てるであろう傷口を上に向けようと肩に手を差し入れたが男の手によってその行為は阻まれた。
「もう俺は……持ちません。それに、こんな家の人間に情けは……無用です。それより、早く逃げて下さい、化け物が……襲ってきました」
男は更紗の手首を握りながら僅かに残った力で顔を上げた。
その顔を見て大きく目を見開き涙を浮かべる。
「そんな事を言わないで下さい!化け物が出たのであれば、手当てして一緒ににげましょう!物音は家の奥の方です!諦めないで!だってあなたは……」
ポロポロと涙を流し、苦しそうに顔を歪める更紗に男は眩しそうに目を細めながらゆっくり上半身を起こし、しっかりした口調で言葉を発した。
「いいから!すぐに逃げるんだ!これは俺たち一族が君にひどい仕打ちをした罰なんだ……だから、早く!!」
「嫌です!あなただけが私を人として扱ってくれました!そんなあなたを」
更紗の言葉を断つように、廊下の奥からヒタヒタと得体の知れない何かが近付いて来る音が響く。