第1章 月夜
満月の光が降り注ぐ、まだ夜明けには遠い時間。
一人の少女、月神更紗が目を覚ます。
十代半ばくらいの見た目に、銀色の髪に柘榴石のような美しい瞳。
夢から覚醒したばかりで、普段はパチリと開く大きな目も今は半分しか開いていない。
だが、両目の目尻からは涙が伝っていた。
(久しぶりにあの夢だったな。もう10年以上も前……もう一度あの頃に戻りたい)
夢現に更紗は懐かしむように目を細める。
もう一度あの夢が見れるかも知れないと涙を拭うことなく、眠りにつこうと目を閉じようとしたその時、多くの人の悲鳴が更紗の耳を突き刺した。
「え!?一体何が起こってるの?」
布団から飛び起き、冷たく重い鉄の扉に歩み寄り耳を当てる。
その間も悲鳴と逃げ惑うような足音、物が壊れる音が絶え間なく鳴り響いている。
恐怖で声も出せずじっとそのままの格好で身を固めていると、ガチャッと鍵が解錠される音が響いて扉が開き、更紗は慌ててその場から数歩後ずさった。
その扉が開いたと同時に、開いた扉の隙間から男が1人倒れ込んでくる。
更紗が驚きすぐに跪いて男の様子を確認するが、更に驚く事が光景が目の前に広がっていく。
ゆっくりとその男の回りに血溜まりが広がり始めたからだ。