第8章 お引越しとお宅訪問
更紗の胸に、一気に様々な感情が入り乱れる。
恐怖、懺悔、後悔……それでも発狂せずにいられるのは、杏寿郎の温かで優しい体温を背中いっぱいに感じられているからだろう。
「俺や胡蝶、お館様の予想通り君は鬼舞辻無惨に目を付けられた。それだけならば良かったのだが、煉獄家の場所を知っている当主が鬼にされた事により、君は……あの家に夕刻以降、身を寄せることが叶わなくなった」
目を見開き体を小刻みに震わせながらも、涙を流さず耳を傾ける姿に杏寿郎はまるで胸の内を抉られるような感覚に襲われた。
だが、今はその胸の痛みに身を委ねることは出来ない。
きっと更紗が1番痛みを感じでいるだろうから……
それからは一気に話した。
その間、更紗は喚くことはもちろん涙を流すこともしなかった。
だが杏寿郎は安心するどころか、先程自分達が想像した出来事が起こるだろうと緊張を高める。
杏寿郎は更紗の立てられている両膝の裏に腕を差し込み、背を支えながら自分の方へそれを引き寄せ横抱きにする。
更紗は驚いたように目を見開くが、杏寿郎の顔を見て笑顔を見せた……目元に笑みのない笑顔を。