第8章 お引越しとお宅訪問
「更紗、君に話さなくてはならない事が幾つかある。聞いてくれるか?」
いつもより低い杏寿郎の声音に更紗は真面目な話だと感じ取り、慎重に頷く。
「はい、何か……ございましたか?」
「あの屋敷の当主が……昨日鬼にされた」
杏寿郎の信じられないような突然の話しに体がびくつき、体を少しずつ恐怖が覆っていく。
だがここで言葉を遮る事は更紗には何となく憚られ、静かに杏寿郎の次の言葉を待った。
「現時点で判明している鬼になる条件は、鬼舞辻無惨の血を体内に入れられると言うものだ。当主が望もうが望むまいが鬼舞辻無惨の采配一つで決まる……俺が思うに、当主は自ら望んだはずだ。君はその理由が分かるか?」
鬼になりたいと思う気持ちは分からないが、あの当主に関しては嫌というほど更紗には分かってしまう。
涙が流れそうになるのを必死で抑え、震える声で答える。
「私を喰べて……得られるかもしれないこの力の為ですか?」
「そうだ。そして鬼舞辻無惨があの屋敷に来たのは更紗を喰うため、もしくは鬼にする為であって、当主は情報を得る為に……あくまでついでに鬼にしたに過ぎないだろう」