第8章 お引越しとお宅訪問
後から辛い事がある時ほど、楽しい時間は瞬く間に過ぎていくものだ。
あれから皆で大皿のおかずをつまみながら賑やかに過ごしたが、今は天元の計らいで杏寿郎と更紗は同室で寛いでいる。
あのように、ただただ楽しく賑やかな時間を初めて過ごした更紗はずっとその名残を残しているかのようにニコニコとしており、杏寿郎は見ているだけでそれにつられそうになる。
(この笑顔を曇らせたくはないが……今日話す事が最良……なのだろうな)
2人はそれぞれ用意された布団の上に座っているが、杏寿郎は胡座をかいている膝をポンポンと叩き片手を広げ更紗を呼ぶ。
「更紗、こっちへおいで」
すると笑顔を更に深め、嬉しそうにちょこちょこと寄ってきてはそっと杏寿郎の上に座る。
前に杏寿郎が願った事を覚えてくれていた事に嬉しさを覚えるも、今の杏寿郎の心境は複雑だ。
細くすぐに壊れてしまいそうな肩を抱き、綺麗な髪の流れる首筋に顔を埋め眉をひそめる。
1度大きく深呼吸をし、気持ちを沈め意を決して天元からの情報とこれからを話す。