第8章 お引越しとお宅訪問
杏寿郎は気持ちを落着けるため深呼吸するも、心臓の鼓動はおさまらずあまり意味を成さない。
自分を見つめて笑う更紗の顔を思い浮かべると今は胸が痛むが、悲観ばかりもしていられない状況だ。
「男はあの屋敷で鬼にされたのか?」
「ああ…… だから最悪の状況だが、鬼舞辻が来る前に姫さんを助け出せたのは不幸中の幸いだ」
鬼舞辻無惨がほんの数日早く到着するか、更紗があの屋敷を脱出するのが遅ければ喰われていたか、鬼にされていたかもしれない。
そう考えると確かに不幸中の幸いなのだろう……だが、問題は山積みである。
「そうだな。しかし、予想通り鬼舞辻無惨は更紗の力を嗅ぎ付け、目を付けたな。お館様のお考えを何か聞いているか?」
天元は頷きお館様からの言伝をゆっくり話す。
「まず1つは日が暮れてから煉獄家に留まらねぇようにする事。クソ野郎は間違いなく煉獄の家に姫さんがいることを知ってる。鬼共がどれほど情報を共有出来るか分からねぇが、鬼舞辻に知られてる場合、姫さんはもちろん煉獄家全員、派手に命の危機だ」
1つ目から更紗にとっては辛い事だろう。
だが煉獄家に留まり続け、その家の者、誰であろうと自分のせいで傷1つでもつけられようものなら家を飛び出しかねない。
辛いがしかたがない。