第8章 お引越しとお宅訪問
完全に4人の気配が遠ざかり、いまだに真剣な表情を崩さない天元に視線を向けると、天元は顔を両手で覆い天井を仰いだ。
「更紗に聞かれると良くない話しがあるのか?」
そのまま天元は手を頭に持っていき、髪を掻きむしる。
「あぁ、そうだ。だからこうして、無理矢理にでも家に呼んだ。既に煉獄の旦那や弟には軽く手紙で伝えてある」
やはり朝に鼠が煉獄家に赴いていたようだ。
それほどまでして伝えなくてはいけない事に、杏寿郎の背中を嫌な汗がつたう。
「それは…… 更紗に危険が及ぶ何かか?」
天元は視線を床に落としていたが、杏寿郎へと視線を移し拳を膝の上で固く握った。
「十中八九、姫さんに危険が及ぶ……あの屋敷のクソ野郎が鬼にされた。昨日の夜だ……すでに仲間だった人間を1人喰ってる」
杏寿郎は自分の考えを遥かに超えた最悪の話しに、目の前が真っ暗になるような錯覚に陥った。
まだあの屋敷から更紗を奪還して3日しか経っていないのだ、それも当たり前の事だろう。
「疑うわけではないが、確かなのか?」
「確かな話だ。クソ野郎の近辺を忍鼠に張らせてたからな……お館様には既に伝えてある。他の柱については煉獄の許可を取ってからって考えてるからまだ伝えてねぇ」