第8章 お引越しとお宅訪問
「いつまでもは……心の準備が……そ、そのうちでお願いします」
「そうだな!そのうちまでの楽しみにとっておくとしよう!さぁ、そろそろ上がって少しだけ、先程の傷跡が治るか試して昼餉をご馳走になろうか。君が先に着替え、その後に浴衣と手拭いを戸の隙間から渡してくれるか?」
コクンと更紗が頷くと杏寿郎は壁の方に体を向けた。
そうして2人が無事に着替え終わり、脱衣場で傷跡が治るか……いざ試すのであった。
天元は昼餉の準備が出来たと引き戸越しに声をかけようとやって来たが、それを成す事はせず戸に耳を当てて盗み聞きをしている。
「辛くはないか?」
「はい……でも初めてなので……少し息苦しさを感じます」
「無理はしなくていい、少しずつ慣れていこう」
(あいつらマジで派手にイチャこいてやがんのか?!声かけてぇけど気になる!!)
「…… 更紗、おいで」
「あ、はい!続きは今度お願いします」
ガラッ!!
「派手を司る神、宇髄様。そこで何をしてた?」
天元は冷や汗をかき笑って誤魔化そうとするも、更紗はともかく杏寿郎はそんなに甘くはない。
「え?ハハ……あれ、脱衣場で何してたの?」
「古傷が治るか試してもらっていただけだが!」
「紛らわしぃんだよ!!気ぃつかった俺の身にもなれよ!」
杏寿郎は天元の言葉に笑顔で返し、更紗の背を押して促しながらその隣を歩いて廊下を行く。
「さぁ、更紗。奥方達に報告しようか!」
「え?何を報告されるのですか?」
「それは派手にマズい!悪かった!」
元々告げ口をする気のなかった杏寿郎はもちろん嫁達に盗み聞き事件の報告はしなかったが、恨みがましい視線を天元が杏寿郎に送り続けていたのは少し後の事である。