第8章 お引越しとお宅訪問
聞いて貰えないと寂しそうに呟く更紗の声音にもついつい反応して抱きしめる力を強めるも、このままだと更紗の主張を無視しかねないと思い、そのままの体勢ではあるが、きちんと案を出した。
「君の申し出を理由もなく反故にしない事を約束する。だから更紗もいきなり力を使う事はしないと約束してくれ……君の力はまだまだ分からない事が多く、本当に心臓に悪いんだ」
先程までの浮かれた声とは違い、心から心配していると伝わる声に更紗も自分の行動に反省したのか目を伏せ眉を下げている。
「申し訳ございませんでした。私の行動は勝手が過ぎていました……これからは突然使いません。ご心配おかけしてすみません」
ションボリしてしまっている頭に頬をすり寄せてから、杏寿郎は更紗の姿が全て視界に映るように体を引く。
「謝る必要はない、心配してくれた事は嬉しいんだ。それにしても、更紗の体は綺麗だな。いつまでも見ていたいのだが、構わないか?」
そう言って更紗の唇を親指で撫でると、更紗は1度自分の体と杏寿郎の体を見やり、ゆっくりと湯に体を沈めていく。