第8章 お引越しとお宅訪問
そっぽを向いた更紗を可笑しそうに眺めながら、しばらく時間が経ち、ようやく再びゆっくりと顔が正面に戻るも、更紗の表情はなぜだか悲しげである。
(何か悲しくなる出来事があったか?会った時から特にそんな出来事はなかったように思うが……)
杏寿郎が必死に考えるも、やはり心当たりはなく首を傾げていると、更紗が杏寿郎の顔を見つめ出す。
「杏寿郎君の体、たくさんの傷跡がありますね……」
ようやく更紗の悲しげな表情に合点がいき、その傷跡の残る体を見る。
鬼殺隊に入ってから鬼と日々戦闘を繰り返していると、どうしても生傷が絶えない。
特に柱になるための任務の際の傷は多く、また傷跡も大きく目立つので更紗はそれを悲しんでいるのだろう。
「柱、一般剣士関係なく、多かれ少なかれ皆体に傷跡はある。今はどれも痛まんから、そう悲しそうな顔をするな」
それでもその時の痛みを考えてしまうのか、なかなか更紗の表情は冴えず、杏寿郎が頬を撫でてやるとその手に自らの手を重ね杏寿郎の手を頬に押し当てて問いかける。
「その傷は名誉の負傷……ですか?」
更紗の問いに杏寿郎は首を左右に振った。