第8章 お引越しとお宅訪問
杏寿郎の笑顔に更紗も笑顔で返すと、杏寿郎は更紗が脱衣場に入るとすぐに廊下に繋がる引き戸を閉めてくれた。
自分の体も冷えているが、途中から雨から庇うように更紗を後ろから抱き締めていた杏寿郎も寒いに違いないと思い、急いで身に付けているものを脱ぎ、手拭いをしっかり体に巻きつけて風呂場へと足を運んだ。
「わぁ!本当に広いです」
なんて少し感動しつつも、桶で湯を掬い体に掛けてから1人では広すぎる浴槽にゆっくりと体を沈める。
少し熱いくらいの湯は冷えた体をほぐし、思わずホッとして笑顔がこぼれる。
「杏寿郎君!広くて気持ちいいです!杏寿郎君もどうぞ!」
広さと温かさに恥ずかしさや緊張も吹き飛び、更紗は足を伸ばし杏寿郎が入ってくるのを待つ。
「入るぞ」
ご丁寧にもきちんと入る前に杏寿郎は更紗に声を掛け入ったものの、気を緩め背を向けていなかった更紗としっかりと目が合ってしまった。
例の如く更紗は腰に1枚手拭いを巻いただけの杏寿郎の姿を見て体を跳ねさせ、顔を反対側にゆっくり向けた。
「よもやよもやだ!」
笑いを堪えながら、杏寿郎は桶で湯を掬って体にかけ浴槽に入っていく。