第8章 お引越しとお宅訪問
顎でクイと示された場所には、綺麗に畳まれた数枚の手拭いと浴衣がある。
これもきっと嫁達が用意してくれたのだろう。
「何から何までありがとうございます」
「いいって事よ!そこの鎹鴉はこっちで預かっててやるから、ゆっくり温まって来い」
「あぁ、そうさせてもらう!」
2人が頷いたのを確認すると、天元はニッと笑って杏寿郎の肩に手を回し、更紗に聞こえないようにコソコソと小さな声で話し出した。
「姫さんに派手に変な事してもいいぞ」
「君は本当に……する訳がなかろう!」
せっかく天元が小さな声で言ったのに、杏寿郎の声に更紗は神久夜を風呂敷からそっと出しながら顔を赤くしてしまった。
そんな2人を他所に天元はクツクツと笑い、神久夜を更紗から受け取ると何も言わずに去っていった。
その後ろ姿を見送り、杏寿郎は硬直している更紗の背を優しく押して脱衣場へと促す。
「俺はしばらくしてから入る。手拭いを巻いて、戸に背を向けて浴槽に浸かれば何も見えんから安心して入るといい」
杏寿郎のこの場での精一杯の心遣いに嬉しく思いながら頷いた。
「ありがとうございます。浴槽に浸かりましたらお声を掛けさせていただきますね」