第8章 お引越しとお宅訪問
「あぁ……うん、君はそのままでいいか。うむ!全てが愛らしいから構わん!」
どうにか煩悩を捨て、ただひたすらに更紗を愛でる事に徹する杏寿郎に首を傾げつつ、頬に当てられた手に自分の手を重ねニコニコと杏寿郎の脳幹を攻撃する。
「杏寿郎君の方がいつでも格好良いです!全て大好きです!」
(んーーーー?!)
と1人杏寿郎が悶えている所へ新たな人影が一つ。
「何派手にイチャこいてんだ?雨とはいえ真昼間の外で」
傘を片手に2人の前へ着流し姿の天元が現れた。
差している傘とは別に、もう一本持っているところを見ると、どうやら迎えに来てくれたようだ。
「宇髄!雨でもいつでも更紗が愛らしいのでな!どこでも愛でたくなるのだ!」
天元の茶化しはもう効果はない。
婚約をしたとなると、自分の気持ちを更紗に隠す必要が全くなくなったからだ。
更紗からすると恥ずかしさが増すだけだが……
「はいはい、姫さんは派手に愛らしいな」
適当な返事をする呆れ顔の天元を見て、杏寿郎はいきなり思い出したように背筋をピンと伸ばした。
「更紗、宇髄が天元君と呼んで欲しいと言っていたぞ!まずは俺から呼んでもらってからだと思っていたら、よもや本人を前にして思い出した!」