第8章 お引越しとお宅訪問
ちょうど心臓の近くに手を当てているため、杏寿郎は直に更紗の心音を感じ小さな笑い声を零した。
「フフッ、今にも心臓がここを破って出てきてしまいそうだ」
「だって!それは……杏寿郎君が……その……」
「その……なんだ?」
意地悪な質問に更紗は答えられず、ギュッと瞼をつぶり腰に回されたままの方の腕を掴む。
「そんな愛らしい仕草をして……煽らないでくれ」
「そんなつもりじゃ……んぁっ」
杏寿郎が滑らかな肌をそっと撫でると、意思とは関係なく甘い声が漏れる。
(もっとその声を聞きたい……だが)
ここは外であり、天元の家の近くだ。
自分はまだしも、こんな姿を見られては更紗はそれこそ卒倒して気を失いかねない。
名残惜しさを感じつつもそこから手を離し、自らの顔を埋めているのとは反対の更紗の頬へ手を移動させる。
「無理をさせたな、すまない」
「無理だなんて……変な声は出ましたが……全く嫌ではないですし、杏寿郎君ならむしろ嬉しいです!」
元気な声に反して更に煽るような言葉に、杏寿郎は思わず脱力してしまう。