第8章 お引越しとお宅訪問
笑うまいと必死に抑えているが、杏寿郎の肩は揺れ言葉も途切れ途切れで僅かな笑い声が混じっている。
更紗はそんな杏寿郎に苦笑いを向けると、向こうを向いて悲しげに震えている神久夜に歩み寄る。
宥めるように頭を撫でてから神久夜を腕に抱き上げると、首に手紙のような物をぶら下げている事に気が付いた。
「急いで届けてくれたのですね、ありがとうございます。これは私宛のお手紙ですか?」
少し涙を滲ませた黒い瞳を更紗に向け、そうだと言うように神久夜は頷いた。
「任務完遂報告ノ帰り二、音柱様ノ鴉二託されマシタ。お家ト本部へハ報告済みデスのでご安心クダサイ」
つまり昨日の深夜から今まで報告や、この手紙を更紗に届ける為に休む間もなく飛び続けたという事になる。
相方思いの健気な神久夜を抱きしめ、天元が寄越してきた手紙をそっと首元から外し杏寿郎の元へ戻る。
「天元様からのお手紙のようです。開けてもよろしいのでしょうか?」
曲がりなしにも天元は柱である。
同じ柱である杏寿郎に確認を取るも、すんなりと頷き開封を促された。
「君宛に届いた文だ。神久夜は預かるから、中を確認しなさい」