第8章 お引越しとお宅訪問
杏寿郎は更紗の頭から手を離し、自分の継子の真剣な言葉と表情を真っ向から受け止めながら、自らの鍛錬を脳内に巡らせる。
杏寿郎はもちろん、更紗も杏寿郎の鍛錬が足りないなどと思っているのではなく、ただもっと強くありたかったと思っているのだと感じ言葉を返す。
「その気持ちは分からんでもない。だが、今回の任務は更紗と桐島少女の2人で完遂できるだろうと言う本部の判断で任された。それは君達それぞれが1人だと、無理と判断されたとも取れる」
杏寿郎の見つめる更紗の瞳は悲しみには揺れていない。
今言われている事が間違っていないからこそ、師範の言葉をしっかり聞き受け入れようとしているのだろう。
「今の更紗の実力がそれであったとしても、君の人の為に強くあろうとする心は柱にも劣らぬはずだ。上には上がいる、それを知ってなお食らいき、追いつこうとする努力を怠らなければ、君は必ず強くなれる」
全身を緊張で硬くする更紗に笑顔を向け、その肩にポンと手を乗せる。
「自らの弱さと向き合い、これからそのような思いをせずに済むよう強くなろう。その為に俺が柱として、師範として君のそばにいる。必ず1人前に育ててやる」