第8章 お引越しとお宅訪問
2人部屋に取り残され杏寿郎は、棗がいた時はさすがに控えていたのだろうが今はそれがなくなり、更紗の両脇に手を入れ天井に向かって抱えあげる。
更紗は耐性がついてきたのかされるがままで、会えて嬉しいと言うような顔で杏寿郎の頬に両手を当て見つめている。
「更紗、本当によかった!桐島少女の件もそうだが、無事で何よりだ!鴉から酷い傷だと聞かされた時は心臓が止まる思いがした」
杏寿郎は天井近くまで抱えあげていた更紗を床へ下ろし、視線を合わすように屈んで頭を撫でている。
「鎹鴉達の伝言を繰り返すうちに、いつの間にか重傷になってしまったのかもしれませんね。傷は負いましたが、簡単に治せるほどでしたので大丈夫ですよ。棗姉ちゃんの件は、本当に嬉しいですが……自分の不甲斐なさに打ちのめされました」
何となく更紗の言わんとしていることが分かるのか、目線を合わせたまま杏寿郎は視線をそらさず先の言葉を待つ。
それを更紗も理解し、なぜそう思ったのか頭の中で整理をして言葉を続けた。
「杏寿郎君ならば容易くいなせたような攻撃だったのです。鍛錬の時間も素質も杏寿郎君に私が劣るのは分かっているのですが……もっと鍛錬に励んでいれば、棗姉ちゃんは傷を負わなくて済んだはずだったんです」