第8章 お引越しとお宅訪問
「すみません……私が血鬼術を全て受け切れていれば、棗姉ちゃんがここまで怪我を負うことも……」
瞼をギュッとつぶりポロポロ涙をこぼす更紗に、棗は優しく微笑みその頬を撫でる。
「反対だよ。更紗ちゃんがあそこまで攻撃を切り伏せてくれたから、これくらいの傷で済んだの。それより2人の初の合同任務完遂を喜ぼうよ!」
更紗は涙で濡れた瞳を棗に向け、そっと地面に横たわる体に抱き着き何度も頷いた。
「はい!はい!本当に初めての合同任務が棗姉ちゃんで良かったです!」
そうして更紗は何か思い出したように起き上がると、ゴソゴソとベルトに結び付けられている大きめの巾着を漁り出した。
「どうしたの?……って保存食そこに入れて持ち歩いてるの?!」
中から出てきたのは紙に包まれた焼き飯だった。
更紗は血で汚れた頬を赤く染め、嬉しそうに頷いた。
「はい。杏寿郎君や御家族の方が、任務の際には持ち歩きなさいと必ず用意して下さるんです。待っててください、食べて足の傷だけでも治しますので」
更紗が焼き飯を口に頬張る姿を見ながら、棗は憶測から確信になった事を思った。
(煉獄様と更紗ちゃんは、恋仲なんだろうなぁ)
と……。
まさか婚約してるとまでは考えつかなかったようだ。