第8章 お引越しとお宅訪問
だが頸を切り落とすことは出来ず、更紗は着地と同時に鬼の背後へ体の柔らかさを存分に使い、跳躍して降り立つ。
「棗姉ちゃん!とどめを!」
棗が血塗れになりながらもこちらへ向かってくる事を確認し、逃げ出そうとする鬼の足を膝の下から切り落とす。
「クソがー!!お前だけでも道ずれにしてやる!」
最後の足掻きで血鬼術を放とうと手のひらを更紗に向けるも、それが叶うことは無かった。
「そんな事許すはずないでしょ?さようなら」
別れの挨拶と共に、棗の手によって鬼の頸は宙を飛び、地面へ落ちて転がった。
やがて音もなく塵と化し、風に流されていく。
更紗はいつも通り両手を合わせて冥福を祈ると、地面に大の字になって倒れ込んでいる棗へ駆け寄る。
「大丈夫ですか?!傷を見せてください、治癒を」
更紗が傷を治そうと傷口に向けられた手を棗は強く握って制止させる。
「駄目、命を削ることになるよ。更紗ちゃん、さっき食べたもの吐き出しちゃったから絶対駄目。それに見た目ほど深い傷はないの、少し休憩したら藤の花の家紋の家に向かおっか」
傷は痛むだろうに笑顔を自分に向ける棗に、更紗は自分の不甲斐なさを嘆き涙が出てきた。