第8章 お引越しとお宅訪問
「君、この手は……」
更紗は男性の言いたい事を理解し、困ったように笑顔を向ける。
「刀を握る為に女性の手は捨てました。この手で、あなたを守らせてください」
優しい笑みに変わった更紗の顔を、目を見開きながら見つめつつ男性は頷き、事切れてしまった妻を大切そうに抱えながら立ち上がる。
「ありがとうございます。誘導しますので、そばを決して離れず着いてきてください」
だが、自分の食事を取られた鬼も黙ってはいない。
「俺の食事をどこに持っていく?」
先程まで遠くにいて姿形さえはっきりと確認出来ずにいたが、今はすぐそばまで迫っており、その容姿が確認できた。
目は鬼特有のもので瞳孔が猫のように縦に開き、短い黒髪は残バラ。
人とはかけ離れた白い肌に血の着いた牙の目立つ口元。
手も着物も血で濡れており、女性を襲ったことが一目でわかった。
更紗は男性を背にかばい、日輪刀を迫り来る鬼に向けて構え戦闘態勢を整えるも、刃を交える前に黒く綺麗な髪が間に滑り込み鬼の攻撃を刀で受ける。
「ここは任せて、早くその人達を!近くに隠がいるはずだから、隠に引き渡して安全な所へ!」