第8章 お引越しとお宅訪問
棗の返事を確認し、更紗は日輪刀で張り巡らされた鋼の糸を勢い良く切りながら男性の元へ辿り着く。
力なく座り込んでいる男性の腕を力の限り強く引っ張り立ち上がらせようとするも、まるで縫い付けられたように腰が上がらない。
「立ってください!あなたの命に関わります、今は辛いと思いますが……どうかあなたは生きてください!」
その声に男性は更紗に視線を向ける。
その顔は悲しみと恐怖と絶望に包まれていて、更紗の胸を深く抉るものだった。
「どうして……もう少し早く来てくれなかったんだ。もう少し早く来てくれていれば、妻が死ぬ事はなかった」
男性の言葉は更に更紗の胸を深く抉るが、それでもここで男性と共に涙を流す事は出来ない。
震える手で男性の手を握り、懸命にここを離れるよう促す。
「あなたの奥様に関しまして、返す言葉もございません。ですが、あなたは生きていて下さいました。今は辛くとも、どうか命を繋いでください。どうか前を向いて進んでください」
涙で濡れた男性の瞳は更紗の手に向けられる。
鬼殺隊剣士として闘うため、女性らしさのなくなった硬い手を。