第2章 追い風
スッスッと静かな足音が3つ近付いてくる。
2つがあの女の子達だとすると、あと一つの足音はお館様のものだろう。
「久しぶりだね、2人とも元気そうで嬉しく思うよ」
「お館様におかれましてもご壮健で何より。これからも益々のご多幸を切にお祈り致します」
杏寿郎の聞いた事のない凛とした声と丁寧な言葉遣いに、更紗は思わず隣りにいる杏寿郎を見ようとしてしまうが、お館様に失礼になってはいけないと思いガッチリと首をそのままで固定した。
「ありがとう、杏寿郎。皆、顔をお上げ」
聞いているだけでフワフワとした心地になる声に促され、3人は顔を上げてお館様を見上げる。
(お顔を怪我されているのでしょうか?目も……見えていないよう……私に治せないでしょうか?)
1人心の中でそんな事を思っていると、お館様は更紗がまるで何を思っているのか分かったかのように更紗を見つめた。
「君が更紗だね。私は産屋敷耀哉、よろしく頼むよ」
お館様の声にフワフワと聞きいっていたが、ハッとして言葉を返す。
「初めまして、月神更紗と申します。杏……煉獄様に鬼に襲われていた所を助けていただき、ここまで連れてきていただきました。お招きいただき、ありがとうございます」