第8章 お引越しとお宅訪問
「それは光栄だな。だが、俺も日々更紗の存在が大きくなってきて困っている」
杏寿郎は湯呑みを床に置かれた盆の上に置き、隣りに座っている更紗の顔の横に垂れた銀色の後れ毛を掬いあげる。
一方更紗は困っていると言われ、少し悲しげに眉をひそめて瞳を揺らす。
「私、何か杏寿郎君を困らせる事をしてしまったでしょうか?」
相変わらず男女の沙汰に鈍い更紗に、杏寿郎は呆れるどころか、その鈍く初心なところも好きだと言わんばかりに微笑んだ。
「愛らしすぎて自制心を保つのに苦労するだけだ。だから、そんなに悲しそうな顔をしなくていい」
杏寿郎が手に掬ったままの更紗の髪に唇を落とすと、更紗は顔を赤く染めた後、満面の笑みを浮かべる。
「私も杏寿郎君にいつもドキドキさせられてしまい、困っているのですよ?」
杏寿郎はそれに穏やかに笑って応え、髪を掬っていた手を更紗の頭の上に移動させフワフワと撫でる。
「君は寒さ厳しい冬を乗り越え、力強くも愛らしい花を咲かせる梅の花のようだな。更紗にそうあってほしいと願い着物の柄の1つに選んだが、俺から言う前にそうなってくれた」