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月夜の軌跡【鬼滅の刃】

第8章 お引越しとお宅訪問


杏寿郎でなくても当時の更紗の心境は誰にもわからなかっただろう。
2人が出会った当初は、あまり感情を表に出さない少女であったから。

「私は今でも一瞬で通り過ぎていった金色と深い赫をはっきりと思い出せます。お顔はもちろん姿を確認する事はできませんでしたが、私にとってその残像は鮮烈な光に見えました」

山の中で杏寿郎が更紗を助けた時の話だ。
あの時、更紗が視認できたのは杏寿郎のたなびく髪だけ。
その一瞬の色を今でも思い出せるのは、きっと更紗の言う通り鮮烈なものだったのだろう。

「それ程までに……印象的だったか?」

「はい、当時は目まぐるしく事が動いたので今のような想いが分かりませんでしたが、目を奪われたのは確かです。あの時から、杏寿郎君の存在は日々私の中で大きくなっていきました」

一目惚れではないし、その時は今のように恋愛感情は無かっただろうが、鬼殺隊の炎柱として、そして1人の人間として存在そのものを肯定するような更紗の言葉に、杏寿郎の心臓が早鐘を打つ。

もちろん一目惚れや初めから恋愛感情があったと言われれば嬉しいが、あの時の更紗の心理的、身体的状況ではそれはほぼないに等しい。
だからそうであったと言われたとしても、心から信じる事は出来なかったはずだ。
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