第8章 お引越しとお宅訪問
居間からでは襖で仕切られ見えないが、更紗は隊服が掛けられている自分の部屋の方を見る。
その顔は穏やかだが、何か考えているような表情だ。
「どうかしたのか?」
なんとも形容し難い不思議な表情の更紗に杏寿郎は首を傾げる。
「杏寿郎君があの時から気遣って下さっていたのが嬉しくて、私はとても幸せ者だと感じます。それと同時に、私はいつから杏寿郎君の事をお慕いしていたのかを考えていました」
杏寿郎がはっきりと更紗を意識しだしたのは、言わずと知れた芋羊羹事件からだ。
だが、互いにいつからそう言った想いを抱いていたのか話したことは無かった。
杏寿郎も言ったことは無かったが、考えていたと言われると気になってしまうのは仕方のないことだろう。
「いつから……か聞いてもいいか?」
更紗は頷くでもなく、頬を赤く染めながら恥ずかしそうな笑顔を杏寿郎に向け、はっきりとした口調で答える。
「私は一目見た時から、杏寿郎君の事をお慕いしていたみたいです」
「なっ……!!」
考えてもみなかった答えに、杏寿郎は驚き目を見開く。
あの時の更紗には、全くその気配は感じられなかった。
むしろ何を考えているのかわからず、不思議な少女としてしかうつっていなかった。