第8章 お引越しとお宅訪問
「そうだな。話の続きもそこでしよう」
杏寿郎は更紗から離れ、薬缶から熱い湯を急須に注ぎそれと湯呑み2つを盆に乗せて持ち上げて更紗を連れて居間へ向かった。
2人でほっこり茶をすすり、落ち着いたところで杏寿郎が先程の話の続きを持ち出す。
「更紗、袴の方の着物の柄を覚えているか?」
更紗は詳しい柄の名前は分からないが、波のような模様に梅の花が描かれている事は覚えていたのでコクリと頷いた。
「もちろんです。綺麗な柄でしたし、杏寿郎君からいただいてお気に入りですのでしっかりと」
隊服の上に羽織として好んで着用する程だ。
余程気に入っているのがそれからも言葉からも感じ取られ、杏寿郎は贈り主冥利に尽きると思い破顔する。
「染め入れられた波のような模様は青海波(せいがいは)と言って、大海原の波のようにずっと穏やかな生活が続くように、との意味が込められている」
過酷な環境で今まで生き抜いてきた更紗の、これからの人生の平穏を願って染め入れられたのだ。
まだ婚約をしていなかった時期にも関わらず、その頃からの杏寿郎の気持ちが伺える。