第8章 お引越しとお宅訪問
離れは3つの居室と居間、風呂、御手洗、台所と生活する分には十分すぎる設備が整っていた。
さすが代々柱を担ってきた名家だと嫌でも理解出来るものだった。
初めは更紗も驚き固まっていたほどだ。
そんな更紗も杏寿郎から1つ部屋を与えてもらい、荷解きを行っていたが、荷物は最低限の衣類しか持っていないので直ぐに終わり、現在は後でやって来る杏寿郎と茶を飲もうと湯を沸かしている。
そこへ部屋の片付けを終わらせたであろう杏寿郎が姿を現した。
「お疲れ様です、杏寿郎君。お湯が沸きましたので、少し休憩がてらお茶でも如何ですか?」
気配を感じ笑顔で振り返る更紗に、杏寿郎は嬉しそうな笑顔を浮かべながらゆっくり近付き、そっと細い肩に腕を回し抱きすくめる。
「うむ、ちょうど喉が渇いたと思っていたところだ。ありがとう、いただくことにする」
と言いつつも更紗を離さないので、急須に茶葉を入れたところで更紗の動きが止まってしまう。
かと言ってそれに不満はないようで、肩に回された腕に自らの手を添えた。
「心地よくて居間へ移動するのがもったいないです。でも、杏寿郎君もお疲れでしょうから向かいませんか?」
穏やかで咎めたり急かしたりする雰囲気が感じられない更紗の声音に、杏寿郎の胸の中がポカポカと温かくなる。