第8章 お引越しとお宅訪問
「何でも聞くといい!」
「はい!以前にしのぶさんが曼珠沙華の着物を見て、何か思うところがあったみたいな反応だったのですが、その意味をご存知ですか?調べてみようと思ったのですが、着物やお花に関する本が見当たらなくて分からないままなのです」
婚約者となる前だったならば、杏寿郎も答えを言い淀んでいただろが今は言い淀む理由もないし、むしろあの着物を選んだ当時の自分を褒めてやりたいくらいだ。
「調べようとしていたのは感心だ!そして胡蝶とその件についてあれから話していないから本意は分からんが、おそらく赤い曼珠沙華の花言葉だ。あの花には前に君に教えた花言葉以外に『想うはあなた1人』と言う物があるらしい」
そう言って杏寿郎は立ち止まって繋がれている手を離し、自身を見上げている更紗の顎にそっと指をあてる。
「あの頃はただ更紗に似合い、前向きな花言葉、炎を連想させる着物を選んだだけだった。そう言った花言葉があるとは知らなかったが、心の奥底で君を想う気持ちがあったのやもしれんな」
頬を薄紅色に染める更紗に杏寿郎は穏やかな笑みを浮かべながら、優しい接吻を交わす。
すると甘い言葉には慣れつつある更紗であるが、接吻にはまだ慣れないようで一気に頬が赤く染まった。