第8章 お引越しとお宅訪問
「そうなのですか?でしたら、今度から千寿郎君とお呼びしてみます」
「あぁ、そうしてやってくれ。さて、あとはこの更紗の荷物だけだ。運んで少し離れの整理をしよう。これは持つから着いておいで」
「はい、ありがとうございます!」
笑顔の更紗に杏寿郎は笑顔で返し、荷物を片手で軽々持ち上げ、反対の手で更紗の手を握り伴って玄関へ向かう。
離れは母屋の裏側に建っており、そこに向かうには庭を通って移動する必要がある。
「更紗、先程の話の続きだが家具を置いていくのはもう1つ理由がある」
「そうなのですか?どなたか越してこられる……とかでしょうか?」
パッチリ開いている目を更に少し開き、杏寿郎は驚いているようだ。
それは正解が近いからだろう。
「越してくるかもしれん。俺は柱だ、希望する者がいるならば継子を受け入れる。その際に部屋の中に家具はあった方がいい。まさか家具を持って継子になる者はいないだろうからな」
それもそうだ。
柱ならば1人継子がいるからと、希望する者を拒むような事はしない。
特に杏寿郎は面倒みがいい為、その門戸を叩けば喜んで迎え入れるだろう。