第8章 お引越しとお宅訪問
「いえ、つい先程千寿郎さんがお持ちくださいました。私の分まで持ってきてくれたのですよ」
自分の膝にかけていた上掛けを、杏寿郎に見せるように両手で僅かに持ち上げる。
「千寿郎は本当に心優しいな。後で礼を言わなくては。千寿郎と言えば、更紗の呼び方に悩んでいるようだったぞ」
「呼び方ですか?」
杏寿郎はもう一度ギュウッと更紗を後ろから抱きしめ、笑顔で嬉しそうに頷く。
「あぁ、君が俺の事を杏寿郎君と呼んでくれるようになったからな。弟の千寿郎からすれば、些か気になるのだろう」
杏寿郎は長男で時期当主であり、今は鬼殺隊の炎柱を任されている。
そんな兄が更紗から君付けで呼ばれ出したにも関わらず、次男で更紗より年下の自分が、さん付けで呼ばれると違和感があるだろう。
「それに俺も弟も幼い頃から形は変われど、基本的に鍛錬ばかりをしてきたので同じ年頃の友というものがいない。誰かに君付けで呼ばれた経験がないので、千寿郎もそう呼んでやってくれれば喜ぶと思う」
更紗は今までの習慣で同じ呼び方をしていたので、千寿郎が悩んでいた事に気付くことすらなかったのだ。