第8章 お引越しとお宅訪問
首を傾げつつも、何か伝えたい事があるのだと考え素直に杏寿郎の足の上にチョコンと座り、その胸に少し背を預ける。
そして杏寿郎は後ろから腰に両腕をまわし、細いなだらかな肩に軽く顔を置いてホッと息をついた。
「杏寿郎君、私に出来ることは何でしょうか?」
「俺がこれをして欲しい時に、これからもして欲しい」
更紗は目を点にして、間近にある杏寿郎の顔をチラリと見やるも、頭の中は疑問符で埋め尽くされている。
「これをですか?」
「あぁ、呼んだら来て欲しい。君が寄ってくる仕草も、少し背を預けてくれる事も、愛らしくて愛おしくて、たまらなく心地良いのだ」
そう言って杏寿郎は更紗にまわしている腕を自分の方に引き寄せ、先程よりも距離を縮めて、体温を感じ取るように自らの体を小さな背中に押し当てる。
更紗も背中にフワフワとした心地良い体温を感じ、自然と目がトロンとなっていく。
「これでは私へのご褒美になっちゃいます。杏寿郎君は心も体も温かくて、やっぱり私の大好きな春の日差しのようです」