第8章 お引越しとお宅訪問
「はい。荷物が少ないのでお引越しは楽々です。でも、杏寿郎君の荷物も少なかったですよね。家具も文机だけでしたし」
杏寿郎の荷物は既に離れへ移動させているのだが、着物や隊服一式、本、筆記具など細々したものだけで、箪笥や本棚さえも元いた部屋に置いたままだ。
「離れと言えど2人の新居だからな。家具は2人で選んで揃えようと考えている。近々、一緒に見に行こう」
心なしか嬉しそうに見えるのは、きっと更紗だけではないはずだ。
もちろん更紗も楽しみであり、2人で選べる事は嬉しいのだが……何分、更紗には大金などない。
任務を着実にこなし、少しずつ貰える給金は増えている。
それでも家具の1つを買えるかどうかである。
「杏寿郎君、不躾なお話なのですが……」
「ん?なんだ?」
杏寿郎のウキウキした顔を直視出来ず、更紗はギュッと目をつぶり俯きながら答える。
「私、家具1つ買えるか買えないかのお金しかないのです!半分半分にしていただいても、箪笥すら危ういと思います……新居に家具が1つでも問題ないでしょうか?」
家具1つだけは問題しかない。
1つだけだと、2人の着物や隊服はしわくちゃになってしまうし、床に積み上げられた本に恐怖しながら茶を啜らなくてはならなくなる。