第2章 追い風
自分が原因で杏寿郎が倒れてしまったら、それこそ後悔と罪悪感で更紗は1週間程寝込んでしまいそうである。
「ハハハッ!それならば休む他ないな!」
「繊細な心配りが出来る子ですね。いい子いい子」
しのぶは自分より少し高い位置にある更紗の頭を、幼子にするように撫でている。
(珍しいな、胡蝶が本当の笑顔をしている。前に話に聞いた姉のカナエ殿に重ね合わせているのか?)
杏寿郎をよそに更紗も乏しい表情の中、気持ち良いと伝わる目をしている。
だが、このまま2人を眺めているといつまでもこの状態が続くだろうと感じ、2人に先を促した。
「もうすぐお館様との約束の時間だ。そろそろいつもの場所へ移動しよう!」
しのぶもこの言葉にハッとしたのか、撫でる手をおろして頷く。
「そうですね、お館様をお待たせしてしまってはいけません。行きましょう」
そう言って2人より先立って屋敷に沿って庭を歩いていく。
「更紗も行くぞ。体調はもう大丈夫だな?」
「杏寿郎さんと胡蝶様のお陰様で、随分良くなりました。ご心配いただいてありがとうございます」
杏寿郎は目を細め柔らかく微笑みながら頷くと、更紗を伴ってしのぶの後ろを歩いていった。