第7章 不穏な影と全貌
「1度だけ、私を屋敷から連れ出そうとして下さいました。ですが途中で捕まってしまい、私が当主とその姉から酷く暴力を受けてからほとんど接点がなくなってしまって……それでも隙を見つけては食べ物をこっそり部屋に運んでくださり、少しお話をしたりしていました」
悲しげに布団に落とされた視線は震えていた。
あの屋敷の中で唯一助け出したかったのは、更紗の心の支えになっていた人物だった。
化け物のような人間が闊歩していた屋敷で、ただ1人残った優しい人間だったのだ。
「更紗にとって、失いたくない人だったのだな。俺も1度会って話をしてみたかった」
杏寿郎の言葉に落とされていた視線を上げ、弱々しいながらも笑顔を向ける。
「きっと、お2人ならば良い関係になれていたと思います」
「俺も、そうだと思う。あの日の夜、更紗を守る為に丸腰で鬼に向かっていくような人だ。自分ではない誰かの為に命をかけられる人は、ただただ愛おしい存在だ」
更紗はその通りだと言うように頷きつつ、杏寿郎に疑問を投げかける。
「なぜ、鬼に向かっていったと分かられたのですか?」