第7章 不穏な影と全貌
やはり顔は出てこない。
杏寿郎は、ふむ……と考えた結果、更紗の両脇に手を差し込み、そのまま上へスっと体を引き上げる。
強制的に顔を晒された更紗は何が起こったのか理解出来ていない表情をしていたが、言葉の通り真っ赤で眉を八の字に歪めていた。
「やっと顔が見れた。君の顔を見るだけで一苦労だ」
「恥ずかしいって言ったのに」
いつも敬語なので、敬語でなくなるだけで幼くなったように感じてしまう。
それも杏寿郎にとって可愛くて仕方がないようだ。
「すまない。だが、好いてる女子の顔は見ていたい」
杏寿郎が額を更紗の頭にコツンと当てると、更紗は下に布団の中におさまっていた手を上へ移動させ、杏寿郎の両頬を華奢な両手で包み込んだ。
そうしてそのまま自らの唇を杏寿郎の唇へ重ね合わせる。
3度目の不意打ちに杏寿郎は驚き、思わず顔に熱が一気に集まってきた。
腕でそれを隠そうとするも、更紗の手がそれをうまく阻害している。
「ちょっ…… 更紗?」
「駄目です、杏寿郎君も赤くなったお顔を見せてください」
杏寿郎はキョトンと更紗を見つめるも、見つめられている更紗の方が恥ずかしそうで思わずクスッと笑った。