第7章 不穏な影と全貌
杏寿郎が部屋に戻ると、そのままの体勢でうつらうつらと船を漕いでいた。
よほど疲れていたのだろう、杏寿郎が入ってきても起きる気配がない。
「また無防備な……」
呆れつつも嬉しそうに更紗の隣りに腰を下ろし、起こさないように肩にもたれかけさせてやる。
陶器のように綺麗な頬を指でつついてみるも、少し身動ぎするだけで瞼は一向に上がる事がない。
「仕方ない、布団を敷いてやるか」
そっと畳の上に更紗を寝かせ、布団がしまってあるであろう押し入れに1歩踏み出した瞬間
ビタンッ!!
なんの恨みがあるのか、更紗は杏寿郎の足首をギュッと掴みその体を畳の上へ打ち付けさせてしまった。
「更紗??あの、思い切り畳に打ち付けられたのだが……って寝ているのか?!」
恨みでもなんでもなかった。
ただ心地よい人肌の温もりがいきなり離れ、無意識に逃すまいと捕まえただけのようだ。
「大丈夫だ、布団を取りに行くだけだから……離しなさい」
もちろん寝ているのでその声は届かず、足首は握りしめられたままである。
どうしたものかと考えあぐねた結果、ひとまず更紗を抱え上げ押し入れ近くまで運び、足元に更紗を下ろして布団一式をその場で広げ布団に寝かせるという、なんとも非効率的な事をやってのけた。