第7章 不穏な影と全貌
更紗は正しく籠の中の鳥状態だったのだ。
ただその時生きる上で必要最低限のものしか与えられずに、あの年齢まで育ってしまった。
だからあの時、ただ男への嫌悪感と防衛本能から頭突きを食らわせただけで、あのまま抵抗しなければ自分の身に何が起こるかなど露ほども理解していなかった。
「出会った時からそうだったが、まさかそう言った知識が皆無とまでは思わなんだ……」
「俺も事も無げに言うから派手に膝から崩れ落ちるかと思った」
2人は顔を見合わせ同時にため息をついた。
「とりあえず何事もなかった。今はそれで良しとするしかねぇな……今日のところ俺は帰る。姫さんの話は気になるが、ある程度後のことは想像がつく。聞き続けてっと間違いなくあの野郎を殺しに行く自信しかねぇしな。嫁達も派手に待ってるし」
そう言って天元は玄関へ向かっていく。
「そうか、更紗に帰った旨を伝えておく。宇髄、今日は助かった。感謝している」
「俺にとっても嫁達にとっても姫さんは妹みてぇなもんだ。気にすんな。あ、次会ったら天元君って呼ぶようにだけ言伝頼むわ!じゃあなー」
本当に言伝だけ言い残して姿を消してしまった。
(最後の言伝は預かりたくなかったが……)
心の中で再び溜息をつき、1人部屋に置いてきてしまった更紗の元へ足を進める杏寿郎であった。