第7章 不穏な影と全貌
「君には敵わないな……確かにこの傷は更紗が懸命に過酷な環境を生き抜いた証だ。恥ずべきものでも悲しむべきものでもなく、誇るべき傷だ」
そう言って杏寿郎は前髪に隠れた傷跡を、更紗に握られていない方の手でそっと撫でる。
だが、そんな杏寿郎とは正反対に天元は今にも額から角が出てくるのではないかと思うほど顔を険しくしている。
「そうかもしんねぇが、女の顔に傷を付けるとはどこまでも見下げた野郎だな。悪ぃ、俺やっぱあの野郎を派手に締めてくっから待ってろ。せめて同じ場所に姫さんの数倍深い傷つけねぇと気がすまねぇわ」
本当にそのままあの屋敷に戻って行きそうな天元を、更紗が必死で止める。
「数倍の深さにすると脳まで達します!!あ、あの、それにまだ体の傷だけで済んで良かったのです!先程のように子供を産めと強要されることも」
「ちょっ……と?!姫さん!!それは黙って」
「子供を産めと、誰が誰に言った?」
天元の怒りは一気に地へと急降下した代わりに、杏寿郎の怒りが天まで登りつつある。
「え?あの当主が私に先程言いいまし」
「姫さん?!答えなくていい!そこは派手に濁せよ!なんでそんなとこまで正直なんだ?!」