第1章 月夜
目を心配そうに見つめながら、母親はゆっくりと更紗の頬に手を当て優しく包み込み、その後ろから父親が2人を抱きしめた。
「そっか。でも、お父さんとお母さんが辛かったら、やっぱり助けたいと思うな」
無邪気な笑顔で、更紗は両親の顔を交互に見遣る。
そんな娘に2人も幸せそうな笑みを浮かべた。
「更紗はすごく優しくて強い子だ。困っている人がいたら、手を差し伸べたくなるだろう。でも力を乱用してしまうと、本当に然るべき時にその力が使えなくなってしまう。まだ難しいかもしれないが、お父さんとお母さんがこれからゆっくり、力の使い方や使う時の見極め方を教えてあげる。3人で一緒に歩んで行こうな」
まだ幼い更紗は言葉の意味の全てを理解出来ていないが、とても大切な事を言われていると理解し、大きく頷いた。
「わかった!いつかはお父さんとお母さんだけじゃなくって、たくさんの人を助けられるように頑張ってみる!」
更紗の大きな決意に2人は目を丸くするも、すぐに娘を愛おしむ表情へと変化した。
そして父親は縁側から降り、愛する妻と娘と目線を合わすように地面に膝をつき、もう一度2人を抱きしめた。
更紗の幼い時の遠く優しい記憶。