第7章 不穏な影と全貌
更紗が終始笑顔であっても傷は痛むはずだ。
特に手足の圧迫されたような痣はあの大柄な男が加減なく握っていたに違いなく、下手をすれば骨にヒビがはいっていてもおかしくないだろう。
(なんで派手に笑ってられるかねぇ……数ヶ月前まで普通の……あぁ、あの傷があの屋敷にいた頃は普通だったって事か)
天元は非常に胸の内がむしゃくしゃするが、杏寿郎もそれくらいの事を分かった上で更紗に穏やかな表情を向けているのだ。
心から好いてる少女の壮絶な過去を感じ取ってなお、笑顔を絶やさず平静を保っている。
そんな男を前に自分が取り乱す訳にはいかないと気持ちを落ち着かせるために、天元は更紗の手当てされた傷から目を逸らす。
天元が心の平静を取り戻した頃、杏寿郎が更紗を支えながら帰ってくる。
(やっぱ派手に痛てぇんじゃねぇか!)
心で叫ぶも必死に笑顔を顔に張り付かせる。
「待たせたな。では更紗、話を聞かせてもらって良いだろうか?」
「はい、あくまで過去なのでどうか心を痛めずに聞いてください」