第7章 不穏な影と全貌
「確かに罪なき人に同じ事をしなければならないならば、嫌な事になるのだろう。だが、俺は先程の事を嫌な事だとも思わんし、後悔もしていない。更紗、顔をあげなさい」
杏寿郎の言葉に素直に従い上げた顔は、悲しみで満ち溢れていた。
そして瞳からとめどなく流れ出る涙を指で拭ってやり、頬に唇を落とす。
「出会った頃にも言ったが、攫われたのが悪いのではなく攫った方が悪い。その攫った奴に俺と宇髄が取った行動は、俺達の意思でした事で君がそれを悲しむことはないんだ……それでも君は優しいから自分を責めてしまうのだろうな」
杏寿郎は更紗を抱きしめ直し、穏やかな声で続ける。
「悲しむならば、怖かった、辛かったと自分の心の中のその時の気持ちを出して欲しい。そうでなければ、本当に更紗は崩れてしまう……怖くなかったか?辛くはなかったか?」
更紗はその言葉に反応して自ら顔を上げ、杏寿郎を見つめギュッと目をつぶり涙をポロポロこぼす。
「杏寿郎さん、私、すごく怖くて痛くて辛くて……あの人に触れられて気分が悪くなったんです。杏寿郎さん以外の人に……顔を合わせたくない人に触れられて、すごく嫌だったんです」