第7章 不穏な影と全貌
天元が盛大に男を脅している時、更紗は杏寿郎の俊足で既に宿に到着して手当を受けていた。
「杏寿郎さん、天元様は大丈夫でしょうか?笑顔なのに悲しそうに見えたのですが……」
痛々しい傷を手当てしながら、杏寿郎は苦笑いを浮かべた。
天元が何をする為に残ったのか杏寿郎はもちろん分かっているが、更紗には刺激が強すぎて言うに言えない。
「宇髄なら大丈夫だ、すぐにここに来る。それより、他に傷はないか?痛むところがあるならば……」
言葉の途中で更紗が杏寿郎の胸に飛び込んできた。
体が小刻みに震えているので何かを堪えているのが痛いほど伝わり、杏寿郎はその背中に腕を回し優しく抱きしめ返す。
「大丈夫だ。もうあの輩が君に危害を加えに来ることは生涯ない」
そんな杏寿郎の言葉に更紗は首を左右に振る。
「違うんです。私の不注意が原因で杏寿郎さんと天元様に嫌な事をさせてしまって……本当に申し訳ございません」
先程の杏寿郎の言動と、何となく天元が1人屋敷に残った理由を感じ取ったのだろう。
更紗の声音から顔が見えなくても涙を流しているのが手に取るように分かった。