第2章 追い風
目線を合わせるために屈みこみ、更紗を親が子を諭すようにゆっくりと話しかける。
まだ万全の状態ではないようで眉をひそめているが、しっかりと杏寿郎の目を見つめ返す。
杏寿郎の目元は、その性格を如実に表している。
意志の強さ、明朗快活、そんな言葉がしっくりくるきりっと目尻と眉のあがったものだ。
見る人が見れば怖いという感情を持つかもしれない目。
見つめられればそれなりに迫力があるが、更紗は不思議とその視線を怖いと感じたことはない。
「はい、では少しの間片腕をお借りします」
そう言って杏寿郎の右腕を遠慮気味に掴み、ほんの少し体重を預ける。
そうして更紗が体を休めていると、後ろから聞いた事のないゆったりとした聞き心地の良い声がした。
「こんにちは、煉獄さん。そちらがお話にあった月神更紗ちゃんですか?」
2人が後ろを振り向くと、更紗よりも少し身長の低い、黒髪を1つに纏めている美しい女性が立っていた。
鬼殺隊が柱の1人、蟲柱 胡蝶しのぶだ。
「おお!胡蝶か!そうだ、この少女が例の月神更紗だ」
そうですか、とそぞろに返事をして心配そうに更紗に話しかける。
「顔色が良くないですね。水分不足かもしれません。煉獄さん、この日差しの中、水分はしっかり与えてきましたか?」