第7章 不穏な影と全貌
男の顔の横寸前で木刀が床に突き刺さっている。
しかもご丁寧に床に着いている指を器用に避けて……だ。
そして杏寿郎は跪くと男の耳元で囁いた。
「お前の指図で俺の許嫁をどうこうする訳がないだろう。お前の所有物のような言い方をするな……次はその喉にこの木刀を突き立てる。あぁ、あと見たところによると更紗にのしかかっていたな」
杏寿郎は木刀を男に見せつけるようにゆっくり引き抜き逆手に持ち直して殺気の篭った目で見下ろし、男の急所目掛けて勢いよく重力に従って木刀を振り下ろした。
それは急所に当たることはなく、再び激しい音を立てて急所ギリギリの所で床に突き刺さる。
「ここでお前の生殖機能を潰しても良かったが、生憎俺の許嫁は呆れるほど優しい。お前ごときでこの少女が心を痛める事は出来ん。更紗に感謝するんだな」
男の震えは最高潮に達し、あと1度でも同じことをすれば失禁してしまうだろうが、杏寿郎の言葉はやまない。
「次に更紗や俺達の前に姿を現してみろ、木刀の代わりに刀でお前の首と急所に穴を開ける。地獄の果てまで追い回してでもな」
そうして杏寿郎は気持ちを落ち着かせるように深呼吸をして、床に突き刺さった木刀を腰にしまう。