第7章 不穏な影と全貌
杏寿郎は左腕で更紗を抱きかかえ、右手に木刀を握りしめて男の前に立ち塞がる。
「鬼殺隊 炎柱 煉獄杏寿郎の許嫁をえらく痛ぶってくれたようだな。更紗にした事を俺たちにしてみせろ」
そう言われるも男は動かない。
更紗にさえ手痛い仕返しを食らわされたのだ。
例え片腕が塞がっていようとも、杏寿郎には勝てないと悟っているのだろう。
しかも天元に関しては両腕が空いていて、木刀のみを握っている。
「自分より強そうな奴には手を出せないか。普通はそうだろうな、お前のような輩は自分より弱そうな者にしか手を出さない」
ジリジリと男ににじり寄っていくが、それに習って男も尻を床につけたまま後ずさる。
2人の屈強な男が怒りの形相で迫り来れば、生存本能から反射的にそう言った行動になるのは仕方がないだろう。
だが、仕方がないから許せるわけではない。
「なぁ、俺は20年生きてきたが、これほどまで人に対して怒りを覚えたのは初めてでな。手加減してもらえると思うな」
折れてるであろう鼻を押さえ、男は震えながら声を発する。
「や、やめてくれ。そいつは連れて行っていい。だから……」
バキバキッ
と激しい音が全員の聴覚を刺激した。