第7章 不穏な影と全貌
男はまさか従順でただ恐怖に身を縮こませていた少女に反撃されるなど夢にも思っていなかったのだろう、受け身をとることすら叶わず更紗の目論見通り激しく脳幹を揺らされ床に膝をつく。
その隙に更紗はここを出ようと扉に向かうも、男に足首を捕まれ転倒してしまった。
「貴様……あの男か?!あの男に手篭めにされたんだな!」
男に掴まれた足首から悪寒がゾワッと更紗の体全体に広がる。
「あなたが杏寿郎さんの事を口にしないで!あなたが口に出すだけであの人が汚れてしまいそうで嫌悪感しか湧きません!」
掴まれていない方の足で男の手を蹴り、開放されるも直ぐに着物の端を掴まれて体勢を整えられない。
「言われて見ればいい体つきになったなぁ。何回だ?あの男に何回抱かれた?」
下卑た嫌な笑顔に更紗の頭に一気に血が上った。
「あなたという人は本当に可哀想な人ですね。そうやって卑しい目でしか人を見れないから、あなたの周りには同じような卑しい人が多く集まるんですよ!」
着物を掴む男の手の甲を思いっきり爪で引っ掻き部屋を出てようやく玄関まで辿り着くも、男に追いつかれ前にたち塞がられる。
今着ているのが道着か隊服であったなら追いつかれることは無かっただろうが、よりにもよって1番気に入りの着物である事が悲しかった。