第7章 不穏な影と全貌
男の言葉に更紗は奥歯を噛み締める。
確かに更紗はあの日、誰も助ける事は出来なかった。
夜の山をそれこそ死にものぐるいで走ったが、何もかも間に合わなかった。
この屋敷でただ1人、助けたかった人すら助けられなかった。
「私の事はどう言おうが構いません。ですが、私はもうあなたにただ人生を消費されるなんてまっぴらです!」
見た目通り気の短い男は額に青筋を立てて更紗に詰め寄り、躊躇いなく頬を力一杯叩く。
だが、更紗もあの時のままではない。
僅かに叩かれる場所をずらし、床に倒れ込むのを防ぎ足を踏ん張って男を睨みつける。
口内が切れたのか唇の端から血が流れるがそれを拭うこともせず、自分より遥かに大きな相手を前にしても怯まない。
「満足ですか?そうして力と恐怖で人を捩じ伏せて、さぞ楽しいのでしょうね。こちらとしては迷惑甚だしいだけです!」
更紗だって人を殴る事は良くない事だと分かっている。
だが口でいくら言っても自分を傷付け利用しようとすることを止めない人間相手に、躊躇っていられるほど余裕もない。
力一杯、男の顎に平手を叩き込み脳幹を揺らす。