第7章 不穏な影と全貌
神久夜が飛び立って一刻が過ぎ、更紗はまだ人気の無い部屋で暖を取るようにうずくまっていた。
よく見ると床にはあの日、自分を助けてくれた人のものと思われる血の跡がある。
その血の跡にゆっくり近付き跪いて悲しげにそっと指で撫でるも、もちろん乾いているので指にはつかない。
「助けられなくて、申し訳ございません。あなたの事は一生忘れません」
しばらく祈るように手を合わせていると、重い鉄の扉が軋みながらゆっくりと開き出す。
更紗は慌てて後ろへ飛び素早く裾が邪魔にならないよう帯に挟み込んでここに入ってくるであろう、自分を攫った人物を確認しようと凝視する。
(あぁ……嫌な予感は当たるものですね)
そこに現れたのは更紗が精神的にも体格差的にも二度とまみえたくは無いと思っていた人物だった。
「あなたがまた私をここに攫ったのですか?」
槇寿郎と同じ歳の頃だと思われる男が入口で嫌な笑みを浮かべて立っている。
同じ歳の頃と言ってもこちらは精悍な体付きの槇寿郎とは違い、ただただ大きく威圧感を放っている。
「人殺しがよく言う。まぁいい、お前さえ居れば家なんていくらでも立て直せるからな」