第7章 不穏な影と全貌
「違うのだ、千寿郎。お前も何も悪くない!必ず俺が更紗を見付ける。だから、もう泣かなくて大丈夫だ」
優しく弟の頭を撫で落ち着かせてやるも、杏寿郎の胸の内は更紗を攫った犯人に対する怒りで満ち溢れていた。
(せっかく、せっかく笑顔を取り戻したところだった!よく笑うようになり、前に進もうとしていたのに!なぜ同じ人間の奴らが更紗の平穏を奪おうとする?!)
畳を力一杯殴り付けたい衝動に駆られるが、そんな行動になんの意味もない。
今は何かに当たり散らしたり、無闇矢鱈と動き回るべきではない。
鎹鴉が天元にさえ伝えてくれれば、更紗が早く見つかる可能性が高くなるのだ。
そんな主の気持ちを察したかのように、鎹鴉が縁側から飛び込んで来て、杏寿郎の前に降り立つ……やたらと筋骨隆々で派手な鼠を背に乗せたまま。
「オトバシラカラノデンゴン!コイツニニオイヲタドラセロ。スグニソチラヘムカウ、イマハウゴクナ、マッテイロ!」
杏寿郎はそれを聞くやいなや、天元の忍鼠を掬い上げ更紗の部屋へ向かい着物の匂いを嗅がせる。
「これが更紗の匂いだ。いけるか?」