第7章 不穏な影と全貌
居間へ到着すると、既に千寿郎と槇寿郎は到着しており腰を下ろして杏寿郎を待っていた。
「杏寿郎、更紗が攫われたと聞いたが」
槇寿郎はいつもの気難しい表情のままだが、瞳は不安げに揺らめいている。
「はい。門の前に帚が打ち捨てられておりました。異変を感じ名前を呼びましたが、これだけの騒ぎになっているにも関わらず更紗は姿を見せません」
千寿郎と同様、槇寿郎の顔も一気に青くなっていった。
「俺が家にいながら……こんな事に……」
「父上の責任ではございません。私が更紗にもっと注意するよう進言するべきでした。あの子の力はいくらでも利用価値があります。今まで治癒をしてきた人間、もしくはあの屋敷の生き残りが再び利用しようとしているかもしれぬから気を付けろと……言ってやるべきでした」
いくら3人で後悔したとて更紗が戻ってくるわけではないが、全員の顔に後悔の色が色濃く浮かぶ。
「兄上、僕……約束を守れず……申し訳ございません」
いつも出掛ける時、更紗を頼むと言われているからだろう。
杏寿郎とよく似た双眸から涙がとめどなく流れ落ちている。